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金沢地方裁判所七尾支部 昭和63年(わ)31号 判決 1988年10月25日

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

本件公訴事実中公職選挙法違反の点については、被告人を免訴する。

理由

一  公職選挙法違反被告事件について

本件公訴事実は、

「被告人は、昭和六二年四月一二日施行の石川県議会議員選挙に際し、同県羽咋郡北部選挙区から立候補する決意を有していたDの選挙運動者であるが、同年三月七日ころ、石川県羽咋郡志賀町《番地省略》B方前路上において、Bから、右Dに当選を得させる目的のもとに、被告人が右Dのため投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬及び費用並びに被告人から右Dの他の選挙運動者らに供与すべき選挙運動の報酬及び費用の資金として供与されるものであることを知りながら、現金一〇〇〇万円の供与を受けたものである。」

というのである。

ところで、金沢地方裁判所七尾支部判決書謄本によると、被告人は、昭和六二年一〇月二〇日同裁判所において、昭和六二年(わ)第九号公職選挙法違反被告事件につき、罪となるべき事実として、

「被告人は、昭和六二年四月一二日施行の石川県議会議員選挙に際し、羽咋郡北部選挙区の選挙人であるが、同年三月五日ころ、石川県羽咋郡志賀町《番地省略》C有限会社事務所において、Cから、右選挙に右選挙区から立候補するDに当選を得しめる目的のもとに、同人のため投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬及び費用として供与されるものであることを知りながら、現金三〇〇万円の供与を受けた」

との事実(受供与)及び事前運動である現金供与・交付の事実により、「(一)被告人を懲役二年六月に処する。(二)この裁判確定の日から五年間刑の執行を猶予する。(三)押収してある現金合計九七万円を没収する。(四)被告人から金六三万円を追徴する。」旨の判決を受け、同判決は昭和六二年一一月五日確定したことが認められる。

そして、右確定判決の認定事実(受供与)と本件公訴事実とを対比すると、供与日、供与場所、供与者、供与金額などがいずれも互いに相違するため、あたかも両事実は両立し得る別個の事実であるかの如き観を呈する。

しかしながら、被告人の当公判廷における供述並びに検察官に対する昭和六三年五月一四日付(二通)、同月一六日付及び同月一七日付各供述調書によれば、被告人は、被告人が地元区長Eら七名に対し供与するなどした現金の出所について、真実は前記Bから現金一〇〇〇万円の供与を受けていたのに、右Bを秘匿するため、右現金(三〇〇万円と減縮して述べている。)は前記Cから供与を受けた旨虚偽供述をしたのであるから、右各現金は同一の金銭を指しているものと認められる。訴追者である検察官も、両訴因における現金は三〇〇万円の限度では同一のものであると主張している(第二回公判調書)。

このように、前記両事実において、その対象物が同一の現金であるほか、同一の選挙及び同一の候補者に関する受供与であり、その日時・場所も接近していること、更に前記両事実における受供与行為はいずれも一回限りの行為で、一〇〇〇万円の受供与はこれを三〇〇万円と七〇〇万円とに分割して評価する余地のない一個の行為であることなどを総合すれば、前記両事実は、社会的事象としては一方の事実が成立すれば他方の事実は成立しえない関係にあるというべきであるから、かような場合には両事実は基本的事実関係を同じくするものと認めるべきである。

したがって、被告人の前記Cからの受供与の事実について前記のとおり確定判決が存在する以上、これと事実関係を同じくする本件公訴事実については、確定判決を経たものとして、刑事訴訟法三三七条一号により被告人に対し免訴の言渡をする次第である。

二  犯人隠避被告事件について

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和六二年四月一五日、石川県羽咋市旭町ユ二〇番地石川県羽咋警察署において、司法警察員竹沢清孝から、同月一二日施行の石川県議会議員選挙に関する公職選挙法違反被疑事件(金銭供与、事前運動)につき取調べを受けた際、真実はBが前記選挙に際し同県羽咋郡北部選挙区から立候補する予定であったDに当選を得させる目的で、いまだ同人の立候補届出のない同年三月七日ころ、右Dの選挙運動者である被告人に対し、右Dのため投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬・費用などとして現金一〇〇〇万円を供与したものであり、右Bが右供与行為によって罰金以上の刑にあたる公職選挙法違反の罪を犯した者であることを知りながら、同人の逮捕及び処罰を免れさせる目的で、「私は、同年三月五日昼ころCから選挙資金として現金三〇〇万円の供与を受けた」旨虚偽の供述をし、もって右供与行為の犯人である右Bを隠避せしめたものである。

(証拠の標目)《省略》

(確定裁判)

被告人は、昭和六二年一〇月二〇日金沢地方裁判所七尾支部において公職選挙法違反の罪により懲役二年六月(五年間執行猶予)に処せられ、右裁判は同年一一月五日確定したものであって、この事実は裁判所書記官作成の判決書謄本によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法一〇三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、右は前記確定裁判のあった公職選挙法違反の罪と刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示犯人隠避罪について更に処断することとし、その所定刑期の範囲内において被告人を懲役一〇月に処し、後記の情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、石川県議会議員選挙に立候補予定のDを擁立する被告人が、事前運動としてBから受け取った選挙資金を用いて地元区長を買収しようとした事実が、選挙終了後発覚し、捜査の手が自己に及ぶや、当時現職の町議会議員であった右Bの逮捕及び処罰を免れさせるため、Fの意を受けて、右選挙資金はCから受け取った旨の虚偽の供述を司法警察員に対して行ったというものであり、その動機において酌量すべき余地に乏しい。

また、被告人は、本件虚偽供述を捜査段階、公判段階を通じて一貫して繰り返していたのみならず、捜査段階において右選挙資金授受の具体的状況などに関して厳しく追及されるようになるや、接見に訪れた弁護士を通じて、同じく取調べを受けていた右Cとの口裏を細部にまで合わせるなど、その犯行態様は巧妙極まりないものである。

そして、その結果、被告人に対する前記裁判においては、裁判所をして、真相と齟齬する事実認定に基づき有罪判決を宣告させるに至らせたのであり、被告人の本件犯行により、実体的真実の発見を目的とする刑事司法が著しい被害を蒙ったことなどからすると、被告人の刑事責任は重大である。

しかしながら、本件は発言力の強いFが被告人を教唆して実行させたものであること、幸い前記Cの供述によって真相が明らかになり、前記Bについても刑事訴追が行われていること、被告人自身は前記虚偽供述により何ら利益を得ることはなかったこと、被告人はその後本件犯行を率直に認め、反省悔悟の態度が見られること、道路交通法違反による罰金刑のほかには前科がないこと、被告人は店舗経営により家計を支え、普段はまじめな市民生活をしていることなど、被告人に有利な情状も併せ考慮すると、被告人に対しては今回に限り刑の執行を猶予し、社会内における更生の機会を与えるのが相当であると思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山川悦男 裁判官 古賀輝郎 西井和徒)

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